昨今の深刻な国力低下は、戦後教育の劣化に起因していると言っても過言ではないでしょう。未来への投資を疎かにしたツケは、次世代を担う若者たちに回されようとしています。老朽化したシステム、弊害となる前例主義・事なかれ主義、疲弊する教育現場・・・救済する手段は、起爆剤はあるのでしょうか?
顕在化する地盤沈下の一方で水面下では力強い地殻変動が起きています。その中心は埼玉県戸田市。
今回は、埼玉県戸田市教育委員会教育長の戸ヶ崎勤氏をお招きし、「教育DXについて考える」をテーマにご講演をいただきました。かつては全国ワーストの“荒れた”小中学校と言われた戸田市を今や県下トップクラスの学力にまで押し上げ、文部科学省が提唱する「GIGAスクール構想※」のモデルともなった同市の取組とはどんなものなのでしょう。(※2019年に始まった全国の児童・生徒に1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する取組)
『子供たちはデジタル化が進んでいる家庭や社会から、アナログだらけの昭和と変わらない学校へと毎日タイムスリップしているんじゃないか』と語る戸ヶ崎氏。確かに生まれつきスマホが当たり前にあった世代にとって、毎日学校へ行って学ぶ合理的な理由を見つけるのは難しいのかもしれません。学ぶことの喜びを知らない子供たち、登校する価値を疑問視されつつある学校・・・
その閉塞感を打破するために掲げられた「戸田市の教育改革のコンセプト」は4つ。 ❶AIでの代替は難しい力などの育成 ❷産官学と連携した知のリソースの活用 ❸「経験と勘と気合(3K)」から「客観的な根拠」への船出 ❹授業や生徒指導等を科学する・・・乱暴にまとめると「既成概念にとらわれず、今ある最先端のリソースをフルに活用して、教育をゼロベースで再構築する!」ということでしょうか?(間違っていたらゴメンナサイ)
改革は現場で起きている!・・・実際にどのような授業が展開されているのか、ここで戸田市のICT活用について短い動画を見せていただきました。ひとり1台のタブレット、高速タイピングする小学生、電子黒板、デジタル教科書、PCを文房具とした授業、体育の授業での自己調整学習、メタバース美術館での画工作の鑑賞、3Dプリンタやドローンのプログラミング、3Dキャドを活用した動画作成、さらにはインテル株式会社との連携による授業など・・・。私たち昭和の時代とあまりに違う風景もですが、何より驚いたのはランランと目を輝かせて楽しそうに学ぶ(熱中と呼ぶのにふさわしい!)子供たちの姿でした。
戸ヶ崎氏によれば、今後「教育のデジタル化とDX」をさらに推し進め、さらに先のフェーズ「教育の多様化とインクルーシブ教育」「産官学と教育の未来」へと発展・成長を目指すそうです。
『社会に開かれた教育課程を実施していきたい』『日本の教育の良さを生かしつつ誇りを持って外部や外国に学び長所を取り入れていきたい』と力を込める戸ヶ崎氏。
最先端の学習環境、未来が感じられる学び、 短所ではなく長所にフォーカスした教育・・・子供たちが憧れる学校本来の姿がそこにあります。
勤勉で誠実なDNAを持つ私たちの高いモラルや理念、最新の科学がもたらす問題解決能力は、世界の発展・成長をけん引する大谷翔平選手並みの人材をスタンダード化してしまうかもしれません。なんだかワクワクしてきますね。
「教育DX」の最終フェーズは産官学との連携による未来の構築だといいます。もちろん「暁の会」メンバーも産業界を代表するプレイヤーとして積極的に取組に参加する立場にあります。まずは、戸田市の教育現場を見学に行きたいとの声が多数あがっていました。あの現場は絶対生で見たいですよね。
※今回のご講演は、従来のzoomではなく、「Microsoft Teams」を使って行われました。AI「Copilot」によって、リアルタイムでの議事録の書き起こしやプロンプトによるフォローアップ質問やアイデアの提案などを実現。IT活用のメリットと教育現場の劇的変化を体感する機会となりました。