かつて呉服業界の流通モデルは酷いモノでした。メーカーと小売りの間に複数の卸売業者が存在し、消費者は高い買い物をしていたと言われています。メーカーと消費者が直接つながる現在では、さすがに解消されつつありますが、ここに50年前と変わらないビジネスモデルの業界があります。建築業界です。
今回のご講演は、その建築業界の悪しき?ビジネスモデルのクラッシュ&ビルドを目指す株式会社4D/GROUNDWORKの塚本光輝氏です。建築業界はもちろん、暁の会会員からもその活動に熱視線が注がれている塚本氏、昨年9月以来、待望の再登壇となりました。
紹介だけで個人住宅、オフィス、店舗、ホテルなどの依頼が殺到する“行列の出来る”住空間プロデューサーとして知られる塚本氏。最近は建築コンサルタントとして工務店の全国行脚をされているとのことです。
なぜ工務店なのか。そこには氏の目指すビジネスモデルを構築するための戦略があります。
現状、建築業界の典型的なビジネスモデルは、大手ハウジングメーカーがブランド力と安心感を武器に集客、顧客獲得をし、建築そのものは工務店や設計事務所が請け負うというスタイルです。価格の決定権はメーカーにあり、必要な粗利を真っ先に確保するため、工務店は常に不利な立場、完全に下請け状態です。
異議あり!「それは、おかしいよね」と塚本氏は憤慨します。
考えてみてください。「こんな家が欲しい」「こんな空間で暮らしたい」・・・そんな顧客に価値を提供できるのは誰でしょうか?素晴らしいデザイン性や快適な機能性を実現するのは誰でしょうか?
「確かな技術を持った地域の工務店が、デザイン性やブランディングの重要性に目覚めれば変わる!」「下請けを脱却し、健全な経営とお客さんに満足していただける家づくりができる。」と熱く語る塚本氏。
お客様にとっての価値をほとんど創造することのできないハウジングメーカーを排除した、工務店主体のお客様ファーストなビジネスモデルをつくるために、無償で自らのノウハウを提供しながら日本中を奔走しています。
何が氏をここまで駆り立てるのでしょう。「愛だよ、愛」・・・
「この予算でやってほしいと言われれば、やってあげたいじゃない。」「こんな家に住みたいといわれれば、つくってあげたいじゃない。」「出来る方法を考えるんですよ。メルカリもチェックするし、時には雑貨屋を回り、素材を自分で探すんです。アイデアを絞り出すんです。」
どうも愛情というのは、時にこんな面倒な作業や些細なことも楽しみに変えてしまうらしい。そういえば、“神は細部に宿る”っていいますよね。
こうして神が宿った建築物は、オーナーにどんなベネフィットをもたらすでしょう。
個人住宅なら、次世代やさらにその次の世代まで続く快適な日々と豊かな人間性を育んでくれるでしょう。
オフィスなら、気持ちよく円滑なコミュニケーションを生み出し、優良人材を集めてくれるでしょう。
店舗なら、クチコミで集客から顧客獲得・リピーター化まで自動化し、宣伝を不要にしてしまうでしょう。
氏の実績がそれを証明しています。エピソードを添えて紹介された作品はどれも「あっ、ここ、住みたい」「おお、この店、行きたい」と思わず言葉が出るモノばかり。いずれも顧客満足を超えた感動レベルです。
ある「暁の会」会員が言いました。「年収500万円の人でも、年収1億円に見えちゃうような家をつくっちゃうんだよなあ。」・・・まったく同感です。
もちろん、そのマジックを支えているのは、長年の経験で培ったノウハウやどん欲なまでのインプットの質と量。きっと氏の脳内には膨大な情報とアイデア、ひらめきのもとが詰まっているのでしょう。
予算内でつくる秘訣は、ひょっとしたらこれら無限の価値を生み出すリソースを、ほとんど思いやり価格で提供しているのかもしれませんね。
「愛だよ、愛」・・・心の深いところに届く、印象的な言葉でした。