活動情報

株式会社KyoMi 柏本知成氏講演会 8月20日

もしも、「働きたい」と思っている人がいるのに、働く場所が見つからないとしたら——。

そして、その理由が本人の能力ではなく、社会や企業側の「知らない」「分からない」という壁だとしたら、私たちは何を変えることができるでしょうか。

今回の講演では、株式会社KyoMi代表取締役の柏本知成氏より、「働きたいけど働けないをゼロに」をテーマに、障害者の社会復帰を支援しながら、福祉業界そのもののイメージを変えようとする取り組みについてご講演いただきました。

柏本氏が掲げるのは、「福祉業界の新たな歴史を」という志です。その象徴が「福祉3K宣言」。従来の福祉業界に対する「きつい・給料が安い」といったネガティブなイメージを払拭し、「かっこいい・高収入・家族を大切にできる会社」へと変えていくことを目指しています。優秀な新卒人材が福祉業界を選ぶ環境をつくり、業界全体をリブランディングしていくという発想は、従来の福祉事業者とは一線を画すものでした。

KyoMiの中心事業は、障害のある方の就職を支援する就労移行支援事業「はたらくの窓口」です。あえて人目につきやすい明るい場所に事業所を構え、従来の「福祉施設」のイメージを変える工夫をしています。また、就労継続支援B型では、単なる作業の場ではなく「本人の成長のための高品質な雇用場所」を提供。豊田市名産の銘米を使ったスイーツの製造・販売など、商品そのものの価値を高めることで、利用者の仕事への誇りにもつなげています。さらに福祉コンサルティング事業では、2023年からトヨタ自動車本体との業務提携も行っています。

柏本氏がこの事業に取り組むきっかけとなったのが、精神障害者の就職率の低さでした。令和4年のデータでは、精神障害者は614.8万人いる一方、就職者数はわずか11万人、就職率は1.8%にとどまります。柏本氏は、この「98.2%」の人たちにこそサービスを届けたいと考え、豊田市初となる精神・発達障害専門の支援センターを開設しました。

開設にあたり、全国の事業所を実際に訪問して調査したところ、障害者の就職が進まない背景には、企業側にも大きな課題があることが分かりました。「任せられる仕事をつくれない」「現場でサポートする人材が足りない」「障害特性や合理的配慮についてのノウハウがない」「採用・マッチングが難しい」「社内の理解が十分でない」など、企業側の不安や準備不足が、雇用の大きな壁になっていたのです。

そこでKyoMiが取り組んだのが、採用したい企業と働きたい精神・発達障害者をつなぐ「実習制度」です。面接だけで判断するのではなく、実際に職場で働く姿を見てもらい、その「働きぶり」を通して採用を判断する仕組みです。現在では、就職者累計1,000名以上、サービス導入企業800社以上という実績につながっています。

さらに、就職させることだけをゴールにしない点も大きな特徴です。障害者雇用では、就職後の定着が大きな課題となっており、3か月時点で69.9%、1年時点では49.3%が離職するというデータもあります。そこでKyoMiでは、自社アプリ「安定通所」を開発し、通所状況などの習慣を可視化。事実データをもとに定着支援を行うことで、支援の質を高めながら、現場の負担や時間の削減にも取り組んでいます。

また、メンタルを病む要因として「睡眠不足・栄養不足・運動不足」に着目し、こうした生活習慣の管理にAIを導入する構想も進めています。従来の「授産作業」を中心とした支援から、就職に必要な基礎教育やコミュニケーションを重視したカリキュラムへと転換するなど、社会復帰という本来の目的から逆算した支援を追求しています。

今後、法定雇用率はさらに引き上げられ、障害者雇用への対応を迫られる企業は増えていきます。一方で、令和6年の法定雇用率未達成企業は54%に上ります。だからこそ、企業が慌てて採用するのではなく、事前に障害への理解を深め、適切な準備を行うことで、企業と働く人の双方にとってより良い雇用を実現することが重要だという柏本氏の指摘は、これからの経営を考えるうえで非常に示唆に富むものでした。

本講演を通じて強く感じたのは、社会課題を解決するためには、支援する側だけが変わるのではなく、受け入れる企業や社会そのものも変わっていく必要があるということです。「働きたいけど働けない」をゼロにする。そのために福祉業界の常識を変え、企業との接点をつくり、データやテクノロジーも活用しながら新しい仕組みを生み出していく——柏本氏の挑戦は、障害者雇用にとどまらず、「誰もが自分らしく働ける社会とは何か」を私たちに問いかける、大変貴重な講演となりました。

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