もしも、あなたの大切な友人や知人が、ある日突然パートナーを失い、子育てと生活に追われていたら——
あなたはどんな言葉をかけ、どんな支援を思い浮かべるでしょうか。
そしてもし、その方が「家を借りることすらできない状況」に置かれていたとしたら、あなたは何ができるでしょうか。
住まいは、ただの「生活の場」ではなく、人の尊厳や人生そのものに直結する重要な基盤です。今回の講演では、岡本拓也氏に、日本における「住まいの貧困」という見過ごされがちな社会課題と、その解決に挑む最前線の取り組みについてご講演いただきました。
岡本氏は、千年建設株式会社の代表取締役社長であり、生活困窮者向け住まい提供サービス「LivEQuality大家さん」を立ち上げたソーシャルベンチャーのリーダーです。氏が取り組むのは、「アフォーダブルハウジング」と呼ばれる分野で、低所得者や様々な事情により住宅を借りることが難しい人々に対し、相場よりも低価格で良質な住まいを提供する取り組みです。
日本ではこれまで、公営住宅がその役割を担ってきましたが、老朽化や供給減少、さらに近年の住宅価格の高騰により、住まいに困窮する人々は増加しています。特に、シングルマザー世帯では約半数が年間就労収入200万円未満という厳しい現実があり、「住まいがないことで公的サービスも受けられず、働くこともできない」という負のスパイラルに陥っている実態があるといいます。
この課題に対し、岡本氏は「住まいから尊厳を取り戻す」という強い信念のもと、2つの革新的な取り組みを進めています。
一つ目は、ビジネスモデルのイノベーションです。物件の稼働率向上によって不動産オーナーの収益性を高めると同時に、NPOによる入居者支援を組み合わせることで、家賃回収率100%・滞納ゼロを実現。さらに入居後の就業率も80%以上に達しており、「人はつながりがあれば何度でもやり直せる」という岡本氏の言葉が強く印象に残りました。
二つ目は、ファイナンスのイノベーションです。インパクト投資家による支援を受けながら「インパクトボンド」を開発し、さらには金融機関と連携した不動産ファンドの組成へと発展。東京都との官民連携ファンドにおいても大規模な資金調達が進められており、社会課題解決と経済性の両立を実現するモデルとして大きな注目を集めています。
これらの卓越した取り組みはどのようにして生まれたのでしょうか。
ヒントは岡本氏のこれまでの歩みにあるようです。学生時代に世界各地を巡り、バングラデシュでグラミン銀行と出会った経験から「ビジネスが社会を変える」という確信を得たこと、公認会計士としての実務経験、ソーシャルセクターでの経営経験、そして家業の事業承継——これらすべての経験が現在の事業の礎となっています。「人生の点と点がつながるようにこの事業を始めた」という言葉には、深い重みを感じました。
現在、同社はソーシャルビジネスから、社会性と事業性を両立する不動産ファンドビジネスへと進化しつつあります。今後は市場全体を牽引するマーケットリーダーとして、政策提言やファンド規模の拡大を通じて、日本全国へこの仕組みを広げていく構想が語られました。2035年までに7兆円規模の市場を創出し、120万人に住まいを提供するというビジョンは、極めて大きな可能性を感じさせるものです。
本講演を通じて強く感じたのは、「社会課題はビジネスで解決できる」という事実と、そのためには多様な主体の連携と、長期的な視点が不可欠であるという点です。そして何より、「情熱を持って生き生きと働くこと自体が社会への貢献である」という岡本氏の言葉は、私たち一人ひとりの働き方や生き方を見つめ直すきっかけを与えてくれました。
住まいという基盤から、人の人生を再生し、社会全体をより良くしていく——その挑戦は、これからの日本にとって極めて重要な意味を持つものだと感じさせられる、大変貴重な講演となりました。








